PROMはやはりOBC(オリジナルブロードウェイキャスト)がすばらしいということをNETFLIX版が公開される前に声高に伝えておきたい。
NETFLIXでPROMが12月11日に世界で一斉配信されます。
日本では1週間前の12月4日に映画館で先行公開されます。日が変わったの今日ですね!
PROMは元々はブロードウェイで2018年10月に上演され2019年8月にクローズした作品。
ブロードウェイ公演中にRyan Murphyがプロデューサーとして製作指揮をとり、自らメガホンも撮って映像化をするというアナウンスがあり。その後にメリルストリープやニコールキッドマンという豪華キャストでの映像化の発表が。話題にもなりますし、期待も大きいですよね。
私はオリジナルのブロードウェイのミュージカル版が大好きで現地のNYで4回見ております。
2019年の8月のファイナルパフォーマンスももちろん現地に飛んでオリジナルと呼ばれるバージョンの最後をこの目に焼き付けてきました。
NETFLIX製作はこの作品の持つ意味などを世界の人たちに見てもらうには絶好のプラットフォームです。
ただ、最近PROMのオリジナルキャストやクリエイターの皆さんのインタビューを改めて見たり読んだりしていて、オリジナルだからの良さを改めて実感しています。
NETFLIXの世界の契約者数は1億9,500万人(2020.10)という大きな市場に対して、
ブロードウェイでの動員数295,187人。興行的に資本回収できなかった時点で、NETFLIXの映像化はこの上ないお話。世界中の人にこの物語を知ってもらうのは絶好の機会となります。
ただ今後、PROMを語る上でこのNETFLIX版が当たり前のように主流として語り継がれてしまう事がオリジナルを見ている私としては切ないなぁと思ってしまったのです。
私は幸運にもオリジナルである舞台版をたくさん見る事ができたので、
公開される前にオリジナル作品のすばらしさをせっかくなので伝えておきたいと思いこの文章を書いています。
ネタバレ的な文章もあるので、実際にPROMをご覧になってから読んでもらった方が良いかもしれません。
最初に見た時、勝手にレズビアンの女子高生の恋愛がメインだと思って見に行ったら、ブロードウェイの俳優役の皆様の押しが!圧が!すごすぎて、最高に笑って。そしたら急にシリアスでめちゃくちゃ胸を締め付けられてしまったり。笑わせながらも、様々な問題を扱っていて。色々と考えさせられました。
それが、私がこの作品が大好きである理由です。
絶妙なブレンド具合です。
最近はブロードウェイミュージカルでも、原作ものが多い中、オリジナル脚本なんですよね。
この年のトニー賞で、唯一のオリジナル作品です。
笑いの要素も問題をしっかり捉えているのも、当事者達がしっかり作り上げているからなのではと思います。
その当事者というのは演じている人たちがゲイであったり、バイセクシャルであったり、クリエイティブチームにもゲイの方がいます。そして、NYからやってくるブロードウェイ俳優の方々が舞台上で笑わせながらも説得力を持ちながらリアルに存在しているのは当て書きされているからです。
元々クリエイティブチームでこのアイデアが生まれた時、昔から一緒に仕事をしている役者達に声がかかり、何回ものワークショップを行いブロードウェイの俳優達のエピソードや曲は作られ、練り上げられてきた経緯があります。ブロードウェイ上演の8年前からです。
ブロードウェイで興行に至るまでには長い年月と労力がかかるのですが、この作品も同様で、特別なことではないのかもしれませんが、ブロードウェイ俳優達をフューチャーしている点でこの作品ではとても重要です。
Dee Dee Allen役のBeth Leavel
Barry Glickman役のBrooks Ashmanskas
Trent Oliver役のChrisitopher Sieber
Angie役のAngie Schwor
という4人の役者がこのパートを作り上げてきました。
この4人の舞台に対する愛や情熱、インタビューされている時の常にサービス満載なホスピタリティなど尊敬に値します。それがこの役で舞台上で演技している時にもにじみ出てしまっている4人なのです。
それに対して、レズビアンの女子高生を演じる若い二人も才能豊かで負けておりません。
主演のEmma役のCaitlin Kinnunen
その恋人のAlyssa役のIsabelle McCalla
この2人はバイセクシャルであることを公言しており、
あまりに仲良しなので、一瞬つきあっているのではと勘違いしていた時期が私はありました(笑)。
お互いをリスペクトしつつ、最高なケミストリーを魅せてくれます。
この作品が広く世に知れ渡ったのが2018年の感謝祭のMacy'sのパレードでの生中継でのEmmaとAlyssaのキスです。
全米で生中継されていたテレビでその様子が映しだされました。
感謝祭のパレードでレズビアンのカップルのキスが流れたのは初めてのこと。
感謝祭の家族が囲む食卓でLGBTQ+の事が話題になるということはとても大事なこと。
しかも、別に特別なものでもないし、放送禁止することでもないですよね。
区別される存在でもなければ、差別される存在でもない。
カップルであればキスは当たり前にすることです。
それが普通に放送されていて、当時とても感動した事を思い出します。
製作陣も役者陣も放送局のNBCもその意義をわかっていて放送していたんですよね。
反響もすごくて、否定的な意見より、ありがとうや、好意的なコメントが多く寄せられたそうです。
このことからもわかるように、この作品の魅力のもう一つは観客であるLGBTQ+のコミュニティの人達が当たり前に受け入れられる話であることです。歓迎されている作品です。
日本はまだエンタメの消費の手段として、LGBTQ+の要素を使っているというクリエイティブの方々やそれを扱うメディアが多く。表現も酷いものばかりで、インタビューでもびっくりする発言をしたりする人が続出していて、その度に指摘をされています。
指摘に際して、エンタメ界の方々は真摯に向き合っているところを見た事がないですし、歓迎されていない作品が多いです。
PROMに関してはそれは感じられません。皆のインタビューを読んだり見たりしていても、しっかりと理解して真摯に向き合っている姿勢が見られるからです。
そして、多くのLGBTQ+の観客が、これはまさに、私たちの話だ!ということを感じていて、その反響がダイレクトに伝わるのがブロードウェイ特有の文化であるステージドアでのエピソードです。
ブロードウェイは終演後、ステージドアという習慣があり、楽屋口で待っていて、出てきた役者に感想を伝えたり、サインをもらったり写真を撮ってもらう事ができます。
当事者である若者たちから、これは私の話だ。ありがとうと皆が役者達に伝えている場面を私も沢山見ました。
Alyssa役のIzzyちゃんが経験したのは、母親と見に来ていた女の子が、Izzyの前で母親にレズビアンであることをカミングアウトをしたエピソード。母親はちゃんと理解してくれて、その場で皆で泣きながら喜びのハグをしたということ。
Alyssaは作品ではカミングアウトをしておらず、Emmaと付き合っているという設定。
Alyssaの母親とのカミングアウトのシーンは涙もので、私も何回も泣いてます。
余談ですが、Alyssaの母親役のCourtenay Collinsさんはアトランタでのトライアウト(ブロードウェイで上演する前に、地方の劇場で、本番に近い形で実験的な公演を行い修正しながらブロードウェイに向けて作り上げていく公演のこと)で、地元採用された方。この作品は地方と都会の分断というテーマも含んでいるため、Alyssaの母の役を地元の女優をキャスティングした製作の意図は見事にハマっているなと思いました。彼女自身はとても面白い方で、もちろん多様性についても理解がある女優さんだけれども、実際に地方で見受けられる閉塞感を肌で感じていた方が演じることにより演技の深みが増していて、Alyssa母娘のシーンをより際立たせている要因の一つなのではとも思います。
また、実際にゲイであり、ゲイのBarry役を演じているBrooksさんも若い世代だけではなく、Brooksさんの同世代の人たちからも、ありがとうと感謝されるというエピソードを話しています。
実際に当事者の若者や当時、PROMに自分の好きな恋人と行く事が不可能であった時代の人たちの思いを経験している役者たちがその思いを受けてさらにステージ上で体現している舞台。
これ以上の最高な世界は私の今までのエンタメ経験ではなかったと思います。
軽くカミングアウトしますが私もレズビアンなので、この作品の持つ意味がどんなに重要か演じている人や作り上げた人の思いもとてもよく伝わってくるんですよね。
こういう作品を待ち望み続けていましたから。
おそらく舞台が大好きな人もこの作品にはたくさん響くところがあると思います。
舞台愛も詰まっていますし。
ブロードウェイミュージカルネタ満載ですし。
舞台Loverである私も演じ手、作り手の熱さも含めて大好きです。
どのインタビューでもDee Dee Allen役のBeth Leavelさんが毎回語るんですけど、一緒になってお客さんと作り上げて最高な瞬間を毎回共有しているから同じ回は一切無いというようなことをいつも語っています。
彼女をはじめPROMのキャストからは舞台が本当に好きでそこに立ち続けているんだなというのをすごく感じます。
そんな最高な舞台人達が作り上げたこの作品どう映像化されるのかなとわくわくしていたのですが、
実際に、Ryan MurphyでNETFLIXで製作決定した話をするキャスト陣とクリエイティブ陣はとても嬉しそうであったし、
自分たちがキャスティングされたらというインタビューもあったし、楽しそうにしているのを感じていました。
しかし、舞台版の方々を一切キャスティングしないという流れになりそうだと知ったとき、キャスト陣はどう感じたのだろうかと思いを馳せます。
実際にEmma役のCaitlinはNETFLIX版のオーディションを受けたことを明かしつつ、自分たちが作りあげたものが違うものになっていく悲しさをSNSで発信しました。
ただその後、NETFLIX版のEmmaとAlyssaのイメージビジュアルが出たときに、この2人にバトンタッチ!というポストもしており、この物語がたくさんのLGBTQAIに届きますようにとも伝えています。
圧倒的なネームバリューで大衆に見てもらって話題にしてもらうには、アップデートしなければならなかったのは仕方の無い事なのかもしれません。
この作品が舞台としては興行的に決して成功しているとは言えないし、
トニー賞の7部門ノミネートされるも、無冠であったのも影響しているかもしれません。
ただ、舞台で300回以上パフォーマンスをしてきた役者たちを一切キャスティングしなかったのは正直、この作品の本質を描ききれないのではという疑問が残ります。
確かにNETFLIX版はすごいです。こんな夢のようなキャスティングができるんだとも思いました。私はアップデートされたキャストの皆を大好きになると思います。
ただ、唯一気になってしまったキャストがいます。
Barry役のJames Cordenです。
彼は素晴らしいエンターテイナーです。
ただBarryではない。彼は違うよなってずっと思っていて。
そして、その思いが頭の中でしっかりとした考えに行き着いたのはこの記事がきっかけでした。
最近アメリカのHuluで配信公開された映画Happiest SeasonのKristen StewartがVaniti fairにのインタビューを概要して翻訳した記事です。
Kristen Stewartは自身がQueerである事を公言していて、この映画でレズビアンを演じています。一部抜粋しますと
「私は、その経験をした人によって語られるべきストーリーを、自分が(その経験がないのに)やりたいとは決して思わない。とは言え、これは危うい所に入りかねない会話で、もしみんなをこの決まりに縛りつけたら、私はストレートな役を演じられないことになってしまう。すごくグレーゾーンだと思う。男性が女性のストーリーを語る方法はある。あるいは女性が男性のストーリーを語る方法もある。でも、実情を正確に把握して、配慮しないといけない。
また、自分が特定の役を演じることが「許されるかどうか、なんとなくわかる」と信じていて、役者は自分が代表しているつもりのコミュニティに「歓迎」されないなら、やめるべきだとも加えた。
この記事を読んで、James CordenのBarryのキャスティングが歓迎されないキャスティングになっていると確信してしまいました。
ネームバリューがあって歌えて、面白い人。でしかない。体系が似ているでしかない。
Barryの役はとても重要で、かつて、LGBTQ+の少し前の世代の人たちの思いを代弁している役だと思っています。PROMに恋人と行きたかったけどいけなかった、そんな世代を投影しているBarryという役の悲喜こもごもをJamesが演じきれるかは期待薄でしかないです。
私を含めた当事者達の支持が全くないと思います。
そんな予感が見事に的中しました。
3日にNETFLIX版の海外のレビューが各社一斉に公開されましたが、
James Cordenかわいそうなぐらい槍玉にあがっています。
それで、よくよく考えました。
悪いのはキャスティングした人たちでしょと思ってしまいました。
それを許してしまった舞台版PROMのクリエイター達、プロデューサー達も罪深いです。Barryを一緒に作り上げてきたわけだから、重要さもわかっていたはずなのに、
お金が回収できればそれでいいのかと。なんだか悲しくなってしまいます。
それと、Ryan Murphyはさらに罪深いと思います。
彼はQueerエンタメコミュニティにおいては権威がある方で、彼がこの作品の意図を汲み取っていないなんて信じがたいです。
これは面と向かって聞いてみたい。
ゲイではないJamesをOKした理由を教えていただきたい。
そのぐらいこのキャスティングは重要で、作品の善し悪しを左右する存在です。
そして、またまた考えました。
James Cordenは何故オファーを断らなかったのだろうか。
おそらく、メリルストリープとニコールキッドマンと歌いたかったんだろうと。
もしも、私にオファーがきたら、全く歌えませんが、やはり私も断りません(笑)。
ビッグネームと一緒にミュージカル作品で競演できるなんて、夢のようなお話です。
そして、彼は自身がホストを勤める番組Late Late Showのミュージカル作品の名物コーナーであるCrosswalk the musicalでPROMをやろうとしていたのでは!!!と勝手に想像してしまいました。
あのメリル大先生とニコールキッドマンがCrosswalk the musicalを絶対やらないでしょうが、そのプロモーションも込みでのJames Cordenのキャスティングであったら、製作陣も許可をしたのではないかという推測をしてみたりしました(笑)。
コロナ禍でなければ、たくさんのプロモーションがあったのであろうと思うと、少し寂しいですね。これから沢山インタビューとか流れてくると思います。
それも楽しみです。
話が逸れてしまいましたが、
もし、実際に見て、Jamesのキャスティングが問題なければ、ちゃんと私はその感想を書きます。そしたら作品としてもさらに最高になるので、私の心配しすぎであってほしいです。
ただ、レビューでJamesではなく、ゲイの役者を使うべきだと有名なゲイの役者さんをいろいろあ挙げていた方もいましたが、全員違う気がしてしまいます。
Brooksさんの個性と人となりがBarryという役すべてに入っているので、彼にしかできないのではと改めて実感しています。
そして、1人だけと言いつつ。
これじゃないという方は恐れ多くもメリルストリープ、ニコールキッドマン、ケリーワシントンとかも言いたくなってしまいますが、それは映画を見てからかなとも思います。
とにかく、舞台版のキャストはベスト。映画版は映像としてのキャストとしてはベストだと思います。
私にとって実際に見たミュージカル作品の映像化に立ち会うという初めての体験です。
本が原作の映画化の場合、本は基本的に入手可能で、読む事ができますが、舞台の映画化は生ものであるので、その瞬間に立ち会える人が限定されるという意味では、PROMの映画化を見守っているのはとても貴重だなと思っています。
PROMは今後、NETFLIX版の話題が主流になるでしょう。
しかし、私は舞台という最高なエンタメから生まれた作品で、最高なキャスト達が作り上げたものである事をずっと叫び続けていきたいです。
舞台版PROMに関わった、キャストやクリエイターの皆様に改めて沢山の拍手を送りたいです。
そして、PROMという作品が世界中の人たちに沢山見られる作品であり続けますように。